人工股関節手術(THA)を検討されている患者さんから、
「人工股関節は外れることがありますか?」
「脱臼が怖いのですが大丈夫でしょうか?」
という質問をよくいただきます。
確かに、人工股関節手術後の脱臼は代表的な合併症の一つです。
しかし、近年は手術技術やインプラントの進歩により、脱臼率は以前より大きく低下しています。
この記事では、人工股関節手術後の脱臼率や原因、予防法についてわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 人工股関節の脱臼率
- なぜ脱臼が起こるのか
- 脱臼しやすい人の特徴
- 現在の人工股関節手術の考え方
- 当センターの取り組み
脱臼とは?
脱臼とは、人工股関節のボール部分(骨頭)が受け皿(カップ)から外れてしまう状態をいいます。
通常は安定して固定されていますが、
- 強い外力
- 転倒
- 極端な肢位
- 筋力低下
などによって発生することがあります。
脱臼すると強い痛みが生じ、自力で歩行できなくなることが多いため、速やかな整復が必要になります。
人工股関節の脱臼率はどれくらい?
過去の報告では、人工股関節手術後の脱臼率はおおむね1〜5%程度と報告されています。
ただし、この数字には古い時代のデータも含まれています。
近年は、
- インプラント設計の進歩
- 大径骨頭の普及
- 術前計画の向上
- 手術手技の改善
によって、脱臼率は低下傾向にあります。
現在では、多くの施設で初回人工股関節手術後の脱臼率は1%前後と報告されています。
なぜ脱臼が起こるの?
脱臼は一つの原因だけで起こるわけではありません。
複数の要因が重なって発生すると考えられています。
① 転倒
最もわかりやすい原因の一つです。
特に高齢者では、転倒によって人工股関節に大きな力が加わり脱臼することがあります。
② 筋力低下
股関節周囲の筋肉は人工股関節の安定性に重要な役割を果たしています。
筋力が低下すると関節の安定性が低下する可能性があります。
③ 神経疾患や認知症
バランス能力の低下や異常な動作パターンによって脱臼リスクが高くなることがあります。
④ インプラント位置
人工股関節の設置位置も重要です。
適切な位置に設置することで脱臼リスクを低減できます。
昔はなぜ厳しい生活制限があったの?
以前は人工股関節手術後に、
- 足を組まない
- 深くしゃがまない
- あぐらをかかない
- 股関節を90度以上曲げない
といった厳しい生活指導が行われることがありました。
これは当時の人工関節や手術手技では脱臼リスクが現在より高かったためです。
現在は考え方が変わってきています
現在の人工股関節手術では、
- インプラント性能向上
- 大径骨頭の使用
- 手術手技の進歩
- 術前計画精度向上
などによって安定性が向上しています。
そのため、以前のような過度な生活制限を見直す施設も増えてきています。
もちろん脱臼リスクがゼロになるわけではありませんが、昔の常識がそのまま現在にも当てはまるわけではありません。
当センターの人工股関節手術について
当センターでは、仰臥位による前方系アプローチ(ALS)を中心に人工股関節手術を行っています。
また、
- 術前テンプレート計画
- 適切なインプラント設置
- 軟部組織バランスの確認
を重視しています。
その結果、
2026年7月時点で、当センターで施行した人工股関節置換術後の脱臼例は認めていません。
ただし、人工股関節手術には一定の脱臼リスクがあり、将来にわたり脱臼が起こらないことを保証するものではありません。
当院では原則として日常生活制限を設けていません
当院では、人工股関節手術後の日常生活について、原則として特別な制限を設けていません。
患者さんが必要以上に生活を制限するのではなく、
痛みなく自然な生活を取り戻すこと
を重視しています。
もちろん術後早期には無理な動作や転倒に注意する必要がありますが、過度な制限によって生活の質を下げるべきではないと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 人工股関節は本当に外れることがありますか?
あります。ただし頻度は高くなく、現在では初回人工股関節手術後の脱臼率は1%前後と報告されています。
Q2. 足を組んではいけませんか?
現在では過度な制限を設けない施設も増えています。当院でも原則として特別な生活制限は設けていません。
Q3. あぐらはかいてもいいですか?
患者さんの状態によりますが、当院では禁止していません。
Q4. 脱臼するとどうなりますか?
強い痛みと歩行困難が生じることが多く、整復処置が必要になります。
Q5. 脱臼を防ぐために一番大切なことは何ですか?
転倒予防と筋力維持が重要です。医師からしてはいけない動作を伝えられている場合は遵守することが肝要です。
まとめ
人工股関節手術後の脱臼は代表的な合併症の一つですが、近年は発生率が大きく低下しています。
現在では多くの施設で脱臼率は1%前後とされており、インプラントや手術技術の進歩によって安全性は向上しています。
当センターでは2026年7月時点で人工股関節置換術後の脱臼例は認めていません。
人工股関節について不安がある方は、お気軽にご相談ください。
ご相談・診療について
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
人工股関節手術をご検討中の方、セカンドオピニオンをご希望の方もお気軽にご相談ください。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
- Rowan FE, et al. Prevention of Dislocation After Total Hip Arthroplasty. J Arthroplasty. 2018.
- Seagrave KG, et al. Is There an Association Between Surgical Approach and THA Dislocation Rate? Clin Orthop Relat Res. 2017.
- Berry DJ. Epidemiology: Hip and Knee. Orthop Clin North Am. 2001.
- Learmonth ID, et al. The operation of the century: total hip replacement. Lancet. 2007.

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