人工股関節手術(THA)を受けられる患者さんから、
「性行為はいつから可能ですか?」という質問をいただくことがあります。
ただ実際には、
- 恥ずかしくて聞きづらい
- 聞いてはいけない気がする
- ネットで調べても情報が少ない
と感じている患者さんも少なくありません。
しかし、性生活は生活の質(QOL)に関わる大切なテーマです。
実際、人工股関節と性行為については海外でも複数の研究が行われており、脱臼リスクや注意すべき肢位について論文で真面目に検討されています。
この記事では、人工股関節術後の性行為について、医学的観点からわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 人工股関節術後に性行為は可能なのか
- 再開時期の目安
- 注意すべき姿勢(脱臼リスク)
- 後方アプローチと前方系アプローチの違い
- 実際の論文で示されている内容
人工股関節術後でも性行為は可能です
結論から言うと、
人工股関節手術後でも、性生活を送ることは一般的に可能です。
むしろ、
- 股関節痛の改善
- 可動域改善
- 生活の質向上
によって、性生活が改善したと感じる患者さんもおられます。
実際、海外論文でも、人工股関節手術後に性生活満足度が改善したという報告があります。
人工股関節を受ける年代でも、性生活は珍しいことではありません
「人工股関節を受ける年代で、性生活の話をするのは特殊では?」
そう感じる方もおられるかもしれません。
しかし実際には、人工股関節手術を受けることが多い50〜70代でも、性生活は決して珍しいものではありません。
海外では、中高年以降の性生活に関する研究も多数行われています。
例えば、National Social Life, Health, and Aging Project(NSHAP)などでは、
- 57〜64歳:約70%以上
- 65〜74歳:約50%以上
- 75〜85歳:約25〜30%
の人が、何らかの性生活を維持していると報告されています。
つまり、人工股関節を受ける年代であっても、
性生活はQOL(生活の質)の重要な一部
であり、決して特殊なテーマではありません。
実際、人工股関節の痛みによって、
- 股関節痛
- 可動域制限
- 不安感
が性生活へ影響していた患者さんが、術後に改善を感じたという報告もあります。
そのため近年では、海外でも「人工股関節と性生活」は真面目に研究されるテーマとなっています。
いつから再開できる?
明確な絶対基準はありませんが、一般的には、
術後6〜8週頃以降
を目安に説明されることが多いです。
ただし、
- 筋力回復状況
- 疼痛
- 脱臼リスク
- 術式
- 患者さんの柔軟性
によって個人差があります。
術後早期は無理をしないことが重要です。
なぜ注意が必要なのか?
人工股関節術後で最も注意すべき合併症の一つが、
脱臼
です。
特に術後早期は、股関節周囲組織がまだ安定していないため、
- 深い屈曲
- 強い内旋
- 極端な開脚
などで脱臼リスクが上がる可能性があります。(患者さんの術前の状態や、手術方法によっても大きく変わります)
実際に論文で示されている「注意肢位」
人工股関節と性行為に関する論文では、脱臼リスクが高い可能性のある姿勢が検討されています。
代表的な論文として、
- Charbonnier C et al. J Arthroplasty. 2014.
などがあります。
これらでは、股関節角度解析を行い、
- 屈曲
- 内旋
- 内転
が強くなる姿勢では注意が必要と報告されています。
後方アプローチと前方系アプローチの違い
人工股関節には、
- 後方アプローチ
- 前方アプローチ(DAA)
- 前外側系アプローチ(ALSなど)
など、さまざまな術式があります。
従来、後方アプローチでは、
- 深い屈曲
- 内転
- 内旋
を組み合わせた姿勢に注意が必要とされてきました。
一方、前方系アプローチでは後方組織温存の観点から、
術後脱臼リスク低減の可能性
が報告されています。
ただし、どのアプローチでも脱臼リスクがゼロになるわけではありません。
当院の人工股関節手術について
当院では、仰臥位での前方系アプローチ(ALS)を中心に人工股関節手術を行っています。
この方法では、
- 筋肉への侵襲軽減
- 術後早期回復
- 脱臼リスク低減
を重視しています。
当院では、
「絶対に禁止」としている特定肢位は基本的には設けていません。
もちろん術後早期には無理な動作を避ける必要がありますが、過度に日常生活を制限しすぎない方針でリハビリを進めています。
無理をしないことが大切です
人工股関節術後は、
- 痛み
- 筋力
- 柔軟性
- 不安感
にも個人差があります。
そのため、
- 痛みが強い時期
- 無理な姿勢
- 急激な動作
は避けることが重要です。
不安がある場合は、主治医へ相談することをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 人工股関節術後でも性行為はできますか?
一般的には可能です。むしろ股関節痛改善によってQOL向上を感じる患者さんもおられます。
Q2. いつ頃から再開できますか?
一般的には術後6〜8週以降が目安とされますが、回復状況によって異なります。
Q3. 性行為で人工股関節が脱臼することはありますか?
極端な股関節肢位では脱臼リスクが上がる可能性があります。特に術後早期は注意が必要です。
Q4. 前方アプローチでは制限は少ないですか?
前方系アプローチでは後方組織温存による安定性向上が期待されますが、個々の状態によって注意点は異なります。たただ、2026年6月時点で、当センターでTHAを行った患者さんで術後脱臼をされた方はいらっしゃいません。
まとめ
人工股関節術後でも、性生活は一般的に可能です。
ただし、
- 術後早期
- 無理な股関節肢位
- 疼痛が強い場合
には注意が必要です。
現在では、前方系アプローチなど術式進歩によって、以前より日常生活制限を少なくできる可能性もあります。
性生活も含め、人工股関節手術後の生活の質を考えることは非常に重要です。
ご相談・診療について
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
人工股関節手術をご検討中の方、術後生活について不安のある方、セカンドオピニオンをご希望の方もお気軽にご相談ください。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
- Dahm DL, et al. Sexual activity after total hip arthroplasty. Clin Orthop Relat Res. 2004.
- Charbonnier C, et al. Sexual activity after total hip arthroplasty: a motion capture study. J Arthroplasty. 2014.
- Dahm DL, et al. Sexual function after total hip replacement. Orthopedics. 2003.
- American Association of Hip and Knee Surgeons (AAHKS)

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