「人工関節を勧められたけれど、本当に手術をするほどなのだろうか」 「手術をすれば痛みはどこまで良くなるのか」 「また普通に歩いたり、旅行したりできるようになるのか」
人工関節手術を検討されている方にとって、 「手術後に実際どこまで良くなるのか」は、最も気になることのひとつだと思います。
人工関節手術は、変形性膝関節症や変形性股関節症による 痛みや生活機能の低下を改善することを目的とした治療です。 多くの患者さんで大きな改善が期待できる一方、 「手術をすれば完全に元の関節に戻る」「必ず痛みがゼロになる」という治療ではありません。
また、膝の人工関節には、膝全体を置き換える 人工膝関節全置換術(TKA)だけでなく、 傷んだ部分だけを置き換える 人工膝関節単顆置換術(UKA)という選択肢もあります。
この記事では、TKA・UKA・人工股関節全置換術(THA)によって 何が改善しやすく、どのような症状が残る可能性があるのかを、 これまでに報告されている研究をもとに解説します。
※この記事で紹介する数値は国内外の研究報告に基づくものであり、 当センター独自の治療成績を示すものではありません。
この記事でわかること
- 人工関節手術で改善が期待できる症状
- 手術後の痛みや歩行能力はどこまで良くなるのか
- TKA・UKA・THAの違い
- UKAが選択肢になるのはどのような場合か
- 人工関節手術後の患者満足度
- 手術をしても残る可能性のある症状
- どのような状態になったら手術を考えるのか
人工関節手術で最も期待されるのは「痛みの改善」です
人工関節手術の大きな目的のひとつは、 傷んだ関節によって生じている痛みを改善することです。
変形性膝関節症や変形性股関節症が進行すると、 軟骨がすり減り、関節の変形や炎症が進むことで、
- 歩くと痛い
- 立ち上がると痛い
- 階段がつらい
- 夜間にも痛む
- 長く歩けない
- 買い物や旅行を諦める
といった生活上の制限が強くなってきます。
人工関節手術では、傷んだ関節面を人工関節に置き換えることで、 こうした関節そのものに由来する痛みの大きな改善が期待できます。
ただし、膝や股関節周囲の筋肉・腱、腰椎、神経など、 関節以外にも痛みの原因がある場合には、 人工関節手術だけですべての痛みが改善するとは限りません。
痛みが改善すると、歩行や日常生活の改善も期待できます
人工関節手術の目的は、 単にレントゲン上で関節をきれいに置き換えることではありません。
重要なのは、 痛みによってできなくなっていた生活を取り戻すことです。
例えば、
- 近所を歩く
- 買い物に行く
- 階段を上り下りする
- 電車やバスで外出する
- 家族と旅行に行く
- 趣味を再開する
といった活動が、痛みの改善とともに行いやすくなることが期待されます。
人工股関節手術については、大規模な人工関節レジストリを用いた研究でも、 術後に痛みだけでなく、歩行、階段、靴下の着脱、椅子からの立ち上がりなど、 日常生活動作が大きく改善する患者さんが多いことが報告されています。
ただし、 人工関節を入れれば誰でも若い頃と同じ身体能力に戻るわけではありません。
術前の筋力、年齢、反対側の関節、腰の状態、全身疾患、 手術前にどの程度活動できていたかなどによって、回復には個人差があります。
人工股関節全置換術(THA)は、痛みと生活機能の大きな改善が期待できる手術です
人工股関節全置換術(THA)は、 変形性股関節症、大腿骨頭壊死、大腿骨頸部骨折などによる強い股関節痛や機能障害に対して行われる手術です。
大規模な患者データを用いた研究では、 THA後に股関節痛や日常生活動作が臨床的に意味のあるレベルで改善する患者さんが 多いことが報告されています。
股関節の痛みが強いために、
- 長く歩けない
- 靴下を履きにくい
- 車の乗り降りが難しい
- 椅子から立ち上がりにくい
といった状態になっている方では、 痛みの改善に伴って生活の自由度が大きく変わる可能性があります。
一方で、
- 腰からくる痛み
- 筋肉や腱に由来する痛み
- 脚の長さに対する感覚
- 関節周囲の違和感
などが残る場合もあります。
そのため、 「人工股関節にすれば、あらゆる痛みが完全になくなる」と考えるのは正確ではありません。
人工膝関節全置換術(TKA)では、多くの患者さんが改善しています
人工膝関節全置換術(TKA)は、 膝の複数の部位に変形が及んだ変形性膝関節症などに対して行われる代表的な人工関節手術です。
95,560人の患者さんを含む208研究を検討したシステマティックレビューでは、 83%の研究で80%を超える患者満足度が報告されていました。
一方、2023年に報告された別のシステマティックレビューでは、 近年のTKA後の平均的不満足率は約10%でした。
つまり、TKAは多くの患者さんで痛みや機能を改善し、 高い満足度が得られている一方、 すべての患者さんが完全に満足する手術ではないことも知っておく必要があります。
満足度には、
- 術後の痛み
- 膝の動き
- 歩行能力
- こわばり
- 合併症の有無
- 手術前に期待していたこととのギャップ
など、さまざまな要因が影響します。
膝の一部だけが傷んでいる場合は、UKAという選択肢があります
変形性膝関節症に対する人工関節手術には、 膝関節全体を置き換えるTKAだけでなく、 傷んでいる部分だけを置き換える 人工膝関節単顆置換術(UKA:Unicompartmental Knee Arthroplasty) があります。
UKAは主に、 膝の内側だけ、または外側だけなど、一つの部分を中心に変形が進んでいる患者さん で検討される手術です。
膝全体を置き換えるTKAとは異なり、 UKAでは条件が合えば、傷んでいない骨や関節面、 靱帯などをより多く残すことができます。
近年のシステマティックレビュー・メタ解析では、 適切な患者さんに行われたUKAはTKAと比べて、 人工関節を意識しにくい、より自然に感じる膝になる可能性が示されています。
また、UKAはTKAと比較して、
- 手術範囲を小さくできる
- 正常な骨や靱帯をより多く温存できる
- 入院期間や術後回復が短い傾向がある
- 膝の機能が良好になる可能性がある
といった特徴が報告されています。
一方で、UKAはすべての患者さんに行える手術ではありません。
変形が膝の複数の区画に広がっている場合や、 靱帯の状態、膝の変形の程度などによっては、TKAの方が適していることがあります。
また、研究の種類によって結果は異なりますが、長期的な再手術・再置換については、UKAの方がTKAより高いとするレジストリや大規模研究もあります。*国によっても結果は異なります。
そのため、 「できるだけ小さい手術だからUKAを選ぶ」のではなく、 その患者さんの膝にUKAが本当に適しているかを判断することが重要です。
当センターではTKAだけでなくUKAも選択肢として検討し、 レントゲン所見、症状、変形の範囲、靱帯の状態、活動性などを踏まえて、 患者さんごとに適した術式を考えています。
「満足度が高い」=「完全に元通り」ではありません
研究で「満足」と回答している患者さんでも、
- 少し違和感がある
- 深く曲げにくい
- 長時間歩くと疲れる
- 正座が難しい
- 時々痛みを感じる
といった症状が残っていることがあります。
それでも、
「手術前の強い痛みが大幅に楽になった」
「買い物に自分で行けるようになった」
「家族と旅行に行けるようになった」
といった変化によって、手術結果に満足している患者さんは多くいます。
したがって人工関節手術を考える際には、 「完全に正常な関節に戻るか」ではなく、 現在困っている生活がどの程度改善すれば、自分にとって手術を受ける価値があるのか という視点も大切です。
手術をしても痛みや違和感が残ることはあります
人工関節手術後にも、痛みや違和感が続く患者さんは一定数存在します。
原因としては、
- 手術した関節周囲の筋肉や腱
- 神経に由来する痛み
- 腰椎疾患
- 反対側の膝や股関節
- 関節のこわばり
- 感染や人工関節そのものの問題
など、さまざまなものがあります。
そのため、 手術前に「現在の痛みが本当に膝や股関節そのものから来ているのか」を確認すること が重要です。
では、どのような状態なら人工関節手術を考えるのでしょうか?
人工関節手術を考える際に重要なのは、 レントゲンの変形の程度だけではありません。
一般的には、
- 痛みやこわばりが日常生活に大きく影響している
- 歩行能力が低下している
- 外出や趣味を諦めるようになった
- 保存治療を行っても十分な改善が得られない
- 症状、診察所見、画像所見を総合して、主な原因が関節にあると判断できる
といった場合に、人工関節手術が選択肢になります。
反対に、 レントゲンの変形が強いという理由だけで人工関節手術を行うわけではありません。
画像所見がかなり進んでいても、 痛みが少なく日常生活に大きな支障がなければ、 必ずしもすぐに手術が必要とは限りません。
TKA・UKA・THAのどれを選ぶかより、「自分に合った治療か」が重要です
膝と股関節の人工関節には主に、
- 人工膝関節全置換術(TKA)
- 人工膝関節単顆置換術(UKA)
- 人工股関節全置換術(THA)
がありますが、それぞれ適応や特徴が異なります。
UKAのように温存できる部分を残す手術が適している方もいれば、 膝全体の変形が進んでいるためTKAの方が適している方もいます。
重要なのは、 特定の術式を選ぶことそのものではなく、 現在の関節の状態と患者さんが困っていることに合った治療を選ぶことです。
人工関節手術で目指すのは「できなくなったことを取り戻すこと」
人工関節手術の目的は、 人工関節を入れることそのものではありません。
例えば、
- 痛みを気にせず歩きたい
- 家族と旅行に行きたい
- 買い物に自分で行きたい
- 仕事を続けたい
- 趣味を再開したい
といった、 痛みによって失われてしまった生活を取り戻すことが本当の目的です。
人工関節手術には大きな改善が期待できる一方、 できることには限界もあります。
だからこそ、 「手術をするか、しないか」だけで考えるのではなく、 今の生活で何に困っていて、治療によって何を取り戻したいのか を整理したうえで判断することが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 人工関節にすれば痛みは完全になくなりますか?
多くの患者さんで痛みの大幅な改善が期待できますが、 すべての患者さんで痛みが完全にゼロになるわけではありません。 特に人工膝関節では、軽い痛みや違和感が残ることがあります。 また、腰や筋肉、神経など別の原因による痛みは残る可能性があります。
Q2. 手術後は普通に歩けるようになりますか?
多くの場合、痛みの改善とともに歩行能力や日常生活機能の改善が期待できます。 ただし、術前の筋力、年齢、腰や他の関節の状態などによって回復には個人差があります。
Q3. 人工膝関節手術の満足度はどのくらいですか?
TKAについては、多くの研究で80%を超える患者満足度が報告されています。 一方、満足度の評価方法は研究ごとに異なるため、 「○%の人が完全に元通りになる」という意味ではありません。
Q4. TKAではなくUKAを選ぶことはできますか?
UKAは、膝の一部に変形が限局している場合など、 一定の条件を満たす患者さんに適した手術です。 すべての患者さんがUKAの対象になるわけではありません。
レントゲン所見、変形の範囲、靱帯の状態などを確認したうえで、 TKAとUKAのどちらが適しているかを判断します。
Q5. UKAの方がTKAより良い手術なのでしょうか?
一概にそうとは言えません。 UKAは適切な患者さんでは正常な骨や靱帯をより多く残せることなどの利点がありますが、 適応できる患者さんは限られています。
重要なのは、どちらが優れているかではなく、 その患者さんの膝にどちらが適しているかです。
Q6. レントゲンがかなり悪ければ手術をした方がいいですか?
レントゲンだけで手術を決めるわけではありません。 痛みの程度、歩行能力、生活への影響、保存治療の効果などを含めて総合的に判断します。
Q7. 手術をするかまだ迷っていても受診していいですか?
もちろん可能です。 人工関節手術を受けることを決めてから受診する必要はありません。
現在の状態を確認し、 保存治療を続けるべきなのか、 人工関節を検討する段階なのか、 TKA・UKAなどどのような選択肢があるのかを一緒に考えることができます。
まとめ
TKA・UKA・THAなどの人工関節手術は、 適切な患者さんに行うことで、 変形性関節症による痛みや生活機能を大きく改善できる可能性のある治療です。
一方で、
- 完全に元の関節に戻るわけではない
- 痛みや違和感が残ることもある
- 回復の程度には個人差がある
- TKA・UKA・THAでは適応や特徴が異なる
という点も理解しておく必要があります。
大切なのは、 「人工関節を入れるべきか」という問いだけではなく、 現在の痛みによって何を失っていて、それをどこまで取り戻したいのか を考えることです。
ご相談・診療について
人工関節手術を受けるべきかまだ迷っている方でもご相談いただけます。
現在の症状やレントゲン所見、これまでの治療経過、 生活への影響などを確認したうえで、 保存治療を続けるべきか、 人工関節を検討する段階なのかを総合的に判断します。
膝の状態によっては、TKAだけではなくUKAが選択肢となる場合もあります。 セカンドオピニオンとしての受診も可能です。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
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- Poursalehian M, et al. Unicompartmental Knee Arthroplasty Offers More Natural Feeling Joints Compared with Total Knee Arthroplasty: A Systematic Review and Meta-Analysis. JB JS Open Access. 2025;10:e25.00011.
※人工関節手術後の改善度や満足度には個人差があります。本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の治療結果を保証するものではありません。

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