人工股関節置換術(THA)を検討されている患者さんから、
- 手術後も車の運転はできますか?
- 仕事で運転が必要なのですが復帰できますか?
- 買い物や通院はどうすればよいのでしょうか?
- 手術を受けたら運転できなくなることはありませんか?
といった質問をよくいただきます。
特に福知山市や北近畿エリアでは、車は生活に欠かせない移動手段です。
そのため「人工股関節になった後も運転できるのか」は、多くの患者さんにとって非常に重要な問題です。
結論から言うと、多くの患者さんは人工股関節手術後に再び車の運転が可能になります。
むしろ股関節の痛みが改善することで、手術前より運転しやすくなったと話される患者さんも少なくありません。
私自身は運転を一律に制限していません
まず最初にお伝えしたいのは、当センターでは「術後6週間は絶対に運転禁止」といった一律の制限は設けていません。
なぜなら回復速度には大きな個人差があるからです。
実際には、
- 年齢
- 術前の筋力
- 痛みの程度
- 右足か左足か
- 仕事内容
- 日常的な運転頻度
によって状況は大きく異なります。
そのため当センターでは、単純に「術後何週間経過したか」ではなく、患者さん一人ひとりの回復状況を確認しながら個別にアドバイスしています。
実は世界的にも明確な基準はありません
意外かもしれませんが、人工股関節手術後の運転再開時期について世界共通の基準はありません。
海外の研究を見ても、運転再開時期は2週間から8週間まで幅広く報告されています。
これは患者さんごとに回復速度が異なることに加え、運転環境や仕事内容も異なるためです。
つまり、「術後○週間経ったから安全」という単純なものではないのです。
運転再開で本当に重要なことは何でしょうか?
患者さんは「何週間経ったら運転できますか?」と質問されます。
しかし医学的に本当に重要なのは日数ではありません。
重要なのは、
- 緊急時に素早くブレーキを踏めること
- 十分な力でブレーキを踏めること
- 痛みなく運転姿勢を維持できること
- 安全に車へ乗り降りできること
です。
実際に医学研究でも、運転能力はブレーキ反応時間やブレーキ踏力を用いて評価されています。
研究ではどれくらいで回復すると報告されているのでしょうか?
複数の研究をまとめた報告では、多くの患者さんで術後4〜6週間程度になると運転能力が術前レベルまで回復するとされています。
ただし、これはあくまで平均的な結果です。
若く活動性が高い方や術前から筋力が保たれている方では、より早期に運転が可能になることもあります。
一方で高齢の方や筋力低下が強い方では、より慎重な判断が必要になります。
そのため私は「4週間経ったから大丈夫」「6週間経ったから大丈夫」とは考えていません。
患者さんごとの状態を確認しながら判断することが大切だと考えています。
右足の手術と左足の手術では違います
一般的には右股関節の手術の方が慎重な判断が必要です。
右足はアクセルやブレーキを操作するため、緊急時の反応速度が重要になります。
そのため右人工股関節手術後は、左側の手術より慎重に運転再開時期を判断することが多くなります。
一方、左人工股関節手術の場合は、オートマ車であれば右足でアクセルとブレーキを操作するため、比較的早期から運転可能となることがあります。
実際には手術前の方が危険なこともあります
変形性股関節症が進行すると、
- 股関節が痛くてブレーキを強く踏めない
- 股関節が硬くて車の乗り降りが大変
- 長時間運転すると痛みが強くなる
- 咄嗟の動作が難しくなる
といった問題が起こります。
つまり、手術前の時点で安全な運転が難しくなっている患者さんも少なくありません。
人工股関節手術によって痛みが改善すると、
- 車の乗り降りが楽になった
- 長距離運転ができるようになった
- 旅行に行けるようになった
- 仕事への復帰がしやすくなった
と話される患者さんは非常に多くおられます。
私自身の外来でも、「もっと早く手術を受ければ良かった」とおっしゃる患者さんを数多く経験しています。
自動車保険は大丈夫ですか?
患者さんから、 「手術後に事故を起こしたら保険は大丈夫ですか?」 という質問を受けることがあります。
自動車保険の取り扱いは保険会社によって異なる場合があります。
また職業ドライバーの方では勤務先の規定がある場合もあります。
詳細については加入されている保険会社や勤務先へ確認することをおすすめします。
まとめ
- 人工股関節手術後の運転再開時期に絶対的な基準はない
- 研究では4〜6週間程度が一つの目安とされているが正解はない
- 右股関節手術後はより慎重な判断が必要である
- 重要なのは日数ではなく安全にブレーキ操作ができることである
- 当センターでは患者さんごとの状態に応じて判断している
- 多くの患者さんは再び車の運転が可能になる
- 手術によって手術前より快適に運転できるようになる方も少なくない
よくある質問(FAQ)
退院後すぐに運転しても良いですか?
禁止はしていませんが、痛みや筋力低下が残っていることが多く、安全にブレーキ操作ができる状態になってから再開することをおすすめします。
左人工股関節なら早く運転できますか?
オートマ車であれば比較的早期から運転可能となる場合がありますが、個人差があります。
高速道路や長距離運転はいつから可能ですか?
まずは近距離運転から再開し、問題がなければ徐々に距離を伸ばしていくことをおすすめします。
人工股関節になった後も運転を続けられますか?
ほとんどの患者さんは運転を継続できます。実際には手術前より運転しやすくなったと話される方も少なくありません。
参考文献
Patel PV, et al. Doctor when can I drive? A systematic review and meta-analysis of return to driving after total hip arthroplasty. Hip Int. 2023.
Na A, et al. Clinical Considerations for Return to Driving a Car following a Total Knee or Hip Arthroplasty: A Systematic Review. 2020.
ご相談・診療について
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
人工股関節置換術(THA)や人工膝関節置換術(TKA)をご検討中の方は、お気軽にご相談ください。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。

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