―「本当に今、手術が必要か?」を考えるために―
「人工関節手術を勧められたけれど、本当に今受けるべきなのでしょうか?」
膝や股関節の診療をしていると、患者さんから非常によくいただく質問です。
人工膝関節手術(TKA・UKA)や人工股関節手術(THA)は、変形性関節症などによる痛みや機能障害を改善する有効な治療です。
一方で、レントゲンが悪いから手術、年齢が高いから手術、医師に勧められたから手術、という単純なものではありません。
重要なのは、現在の症状、生活への影響、画像所見、保存治療の効果、手術によって得られる利益とリスクを総合して判断することです。
【この記事でわかること】
- 人工関節手術を勧められたときに確認したい5つのポイント
- 「今手術を考える人」と「まだ保存治療を続けられる人」の考え方
- レントゲンだけで手術適応を決められない理由
- TKA・UKA・THAなど術式をどう考えるか
- 手術を必要以上に先延ばしにしない方がよい場合
① 痛みの原因は本当にその関節なのか?
人工関節手術を考えるうえで、最も基本的で重要なのが、現在の痛みが本当に膝や股関節そのものから生じているのかという点です。
レントゲンで強い変形があっても、画像所見と症状の程度が必ず一致するわけではありません。
たとえば股関節周囲の痛みでは、股関節そのものだけでなく、
- 腰椎疾患や神経に由来する痛み
- 大転子周囲の筋肉・腱の痛み
- 腸腰筋など股関節周囲の腱障害
などが関係している場合があります。
膝についても、関節そのもの以外に腰椎疾患や周囲組織の痛みなどが症状に影響している場合があります。
人工関節手術は、痛みの主な原因が置換する関節にあると判断できることが重要です。
▶ レントゲンが悪い=手術ではない?画像と症状から考える人工関節の適応
② レントゲンの悪さだけで手術を決めていないか?
人工関節の適応を判断するとき、レントゲンは非常に重要です。
ただし、画像だけを見て手術を決めるものではありません。
膝では立った状態で体重をかけて撮影する荷重レントゲンや、必要に応じたストレス撮影などによって、関節裂隙や変形の程度を評価します。
また、股関節でも画像所見だけでなく、痛みの部位、可動域、歩行、日常生活への影響などを合わせて評価します。
重要なのは、「画像がどれだけ悪いか」ではなく、「画像所見と症状、生活上の困りごとがどのように一致しているか」です。
③ 保存治療でどこまで改善しているか?
変形性膝関節症や変形性股関節症では、すべての患者さんがすぐに人工関節手術を受ける必要があるわけではありません。
症状によっては、
- 運動療法・筋力訓練
- 鎮痛薬
- 体重管理
- 杖などの歩行補助具
- 膝では関節内注射など
によって症状をコントロールできる場合があります。
一方、画像上も中等度〜高度の変形があり、痛みや機能障害が強く、適切な保存治療を行っても十分な改善が得られない場合には、人工関節手術を検討する段階に入ります。
2023年にAmerican College of Rheumatology(ACR)とAmerican Association of Hip and Knee Surgeons(AAHKS)が発表したガイドラインでも、人工関節の適応となり保存治療が十分に効果を示さなかった患者さんについて、追加の保存治療だけを理由に手術を漫然と延期することは推奨されていません。
つまり、
「すぐ手術する必要はない」ことと、「できるだけ長く手術を我慢した方がよい」ことは同じではありません。
▶ 「まだ手術は早い」と言われた方へ|人工関節を考えるタイミングとは
▶ 人工関節はやらない方がいい人とは?手術を急ぐ前に確認したいポイント
④ 「今やらないと手遅れ」と言われたら?
変形性関節症の人工関節手術は、多くの場合は予定手術です。
そのため、通常の変形性関節症で「数週間以内に手術しなければ手遅れになる」というケースは多くありません。
一方で、人工関節の適応がすでに明確なのに、何年も強い痛みや歩行障害を我慢し続けることにもメリットがあるとは限りません。
特に、
- 痛みによって歩行や外出が大きく制限されている
- 仕事や家事、睡眠など日常生活への影響が大きい
- 保存治療を続けても十分に改善しない
- 痛みのため活動量が著しく低下している
といった場合には、手術を先延ばしにすることで失われる生活の質についても考える必要があります。
また、急速に関節破壊が進行する病態や、大腿骨頭壊死に伴う骨頭圧潰などでは、通常の変形性関節症とは異なる判断が必要になることがあります。
⑤ 自分に適した術式と、術後の生活まで説明されているか?
人工関節手術には、患者さんの状態によって異なる選択肢があります。
膝では、
- TKA(人工膝関節全置換術)
- UKA(人工膝関節単顆置換術)
などがあり、変形がどこまで広がっているか、靱帯の状態などによって適応が異なります。
すべての患者さんに複数の術式が選べるわけではありません。重要なのは、「なぜ自分にはこの術式が適しているのか」まで説明を受けることです。
▶ TKAとUKAの違いとは?それぞれのメリット・デメリットと適応
股関節ではTHAが標準的な人工関節手術ですが、手術アプローチにも複数の方法があります。
▶ 人工股関節(THA)のアプローチ方法|ALSアプローチについて
また、手術方法だけでなく、
- 手術によってどの程度の改善を期待できるのか
- 完全に痛みがなくなるとは限らないこと
- 術後にどこまで活動できるのか
- 合併症にはどのようなものがあるのか
- 将来的な再置換術の可能性
まで理解したうえで手術を選択することが重要です。
▶ 人工関節手術でどこまで良くなる?TKA・UKA・THAの痛み・歩行・満足度
病院によって手術を勧めるタイミングが違うのはなぜ?
人工関節手術には、「レントゲンがこの状態なら必ず手術」という一つの絶対的な境界線があるわけではありません。
同じようなレントゲンでも、
- ほとんど痛みなく生活できている方
- 杖がなければ歩けない方
- 仕事には困らないが趣味ができなくなった方
- 夜も痛くて眠れない方
では、手術を考えるタイミングが異なります。
また、患者さん自身が手術によって何を取り戻したいのかによっても判断は変わります。
そのため、医師によって多少説明が異なること自体が、必ずしもどちらかが間違っているという意味ではありません。
当センターが人工関節の適応で重視していること
京都ルネス病院人工関節センターでは、レントゲンだけで手術の有無を決めるのではなく、
- 痛みの原因がどこにあるのか
- 画像所見と症状が一致しているか
- 歩行や日常生活にどの程度支障があるか
- これまでの保存治療でどの程度改善しているか
- 手術によって患者さんが何を取り戻したいのか
- 手術の利益とリスクのバランス
を総合して判断しています。
手術をしない理由があれば手術を急がず、手術をする十分な理由があれば必要以上に先延ばしにしない。
それが人工関節手術の適応を考えるうえで重要だと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 人工関節を勧められたら、すぐに手術しなければいけませんか?
通常の変形性関節症では、手術を勧められたからといって直ちに手術しなければならないとは限りません。ただし、すでに人工関節の適応があり、保存治療でも十分に改善せず生活への支障が大きい場合には、手術を漫然と先延ばしにするメリットも明確ではありません。
Q2. レントゲンがかなり悪くても手術しないことはありますか?
あります。画像上の変形が強くても症状が軽く、日常生活に大きな支障がなければ、画像だけを理由に人工関節手術を行うわけではありません。
Q3. 痛みが強ければ人工関節をした方がいいですか?
痛みの強さは重要ですが、それだけでは決まりません。痛みの原因、画像所見、歩行や生活への影響、保存治療の効果などを総合して判断します。
Q4. 手術をできるだけ先延ばしにした方が人工関節は長持ちしますか?
若い患者さんでは生涯の人工関節使用期間が長くなるため、将来の再置換術を考慮する必要があります。一方、現在の人工関節は長期耐久性が大きく改善しており、人工関節の寿命だけを理由に強い症状を何年間も我慢することが必ずしも最善とは限りません。
▶ 人工股関節は30年もつ?Lancet最新論文が示したTHAの長期成績
Q5. 手術を迷っている場合、別の医師に相談してもいいですか?
もちろん問題ありません。人工関節手術は大きな治療選択です。現在の診断や手術適応について十分に納得できない場合には、別の人工関節専門医の意見を聞くことも選択肢の一つです。
まとめ
- 人工関節手術はレントゲンだけで決めるものではない
- 痛みの原因、生活への影響、画像所見、保存治療の効果を総合して判断する
- 通常の変形性関節症では「今すぐしないと手遅れ」というケースは多くない
- 一方、人工関節の適応が明確な場合に手術を漫然と先延ばしにすることが最善とも限らない
- 術式だけでなく、期待できる改善・リスク・術後生活まで理解して選択することが重要
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ご相談・診療について
人工関節手術を受けるべきか、まだ保存治療を続けるべきかは、年齢やレントゲンだけでは決まりません。
当センターでは、痛みの原因、画像所見、歩行能力、生活への影響、これまでの治療経過などを総合して治療方針を検討しています。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からもご来院いただいています。
この記事は
京都ルネス病院 人工関節センター
センター長/整形外科専門医・日本人工関節学会認定医・リハビリテーション科専門医
藤井 嵩 が執筆しています。
参考文献
- Hannon CP, Goodman SM, Austin MS, et al. 2023 American College of Rheumatology and American Association of Hip and Knee Surgeons Clinical Practice Guideline for the Optimal Timing of Elective Hip or Knee Arthroplasty. J Arthroplasty. 2023;38:2193-2201.
AAHKSのガイドラインを確認する - Hulin K, Fearon A, Newman P. What are the diagnoses attributed to persistent hip pain after hip arthroplasty? A systematic review. J Clin Orthop Trauma. 2025;67:103036.
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