「人工関節手術は何歳まで受けられるのでしょうか?」
「もう80歳だから手術は無理ですよね」「90歳でも人工関節手術はできますか?」といった質問は、外来でもよく聞かれます。
この記事でわかること
- 人工関節手術は何歳まで受けられるのか
- 50代・60代・70代・80代・90代で考え方はどう変わるのか
- 若い場合に再置換を考える必要がある理由
- 高齢者で年齢より重要になる判断基準
- 人工関節手術を検討するタイミング
人工関節手術に「年齢制限」はあるのか?
人工膝関節置換術(TKA・UKA)や人工股関節置換術(THA)に、「○歳を超えたら手術できない」という一律の年齢制限はありません。
実際の手術適応では、年齢だけではなく、
- 痛みの強さ
- 歩行や階段、買い物など日常生活への影響
- 保存治療で十分な改善が得られているか
- 心臓・肺・腎臓などの全身状態
- 糖尿病などの併存疾患
- 現在の歩行能力やフレイルの程度
- 手術によってどの程度の生活改善が期待できるか
などを総合して判断します。
「何歳だから手術する」「何歳だから手術しない」という単純な線引きではありません。
人工関節手術を受ける年齢の目安
人工関節手術は60〜80代で行われることが多いですが、実際には50代以下でも、80代・90代でも手術を検討することがあります。
50代〜60代
症状が強く、保存治療を行っても日常生活や仕事への支障が大きい場合には、50代・60代でも人工関節手術を検討します。
一方、若いほど人工関節を使用する期間が長くなるため、将来的な再置換手術の可能性も考えて判断する必要があります。
70代〜80代
人工関節手術が行われることの多い年齢層です。年齢だけではなく、全身状態や生活への支障を確認しながら適応を判断します。
90歳以上
90歳以上でも年齢だけで人工関節手術の対象外になるわけではありません。
もともとの歩行能力が保たれており、膝や股関節の痛みが生活を妨げる主な原因となっている場合には、全身状態や手術・麻酔のリスクを十分に評価したうえで手術を検討することがあります。
若すぎると人工関節手術はダメ?
若年患者さんでは、人工関節の耐久性と将来の再置換手術を考えるため、慎重に適応を判断します。
しかし、「若いから」という理由だけで強い痛みや生活障害を何年も我慢することが最善とは限りません。
仕事が続けられない、歩けない、外出できないなど生活への影響が大きく、他の治療で十分な改善が得られない場合には、若い方でも人工関節が合理的な選択肢になることがあります。
高齢すぎると危険?
高齢になるほど、心疾患、呼吸器疾患、腎機能障害、糖尿病などの併存疾患が増え、周術期合併症のリスクも高くなる傾向があります。
したがって、「90歳でも手術できる」ことと、「90歳でも若い患者さんと同じリスクで手術できる」ことは別です。
一方で、関節痛のために歩かなくなり、筋力や身体機能が低下していくことにも不利益があります。
高齢者では、「手術するリスク」だけではなく、「手術をしないことで生活機能を失うリスク」も含めて考えることが重要です。
年齢より大切な3つのポイント
① 現在どれだけ生活に困っているか
人工関節手術の目的は、レントゲンをきれいにすることではなく、痛みによって失われた生活機能を取り戻すことです。
歩行、階段、買い物、仕事、旅行、趣味などがどの程度制限されているかを重視します。
② 全身状態と現在の身体機能
年齢そのものよりも、心肺機能、併存疾患、認知機能、フレイル、もともとの歩行能力などが手術後の回復や合併症リスクに大きく関係します。
③ 手術によって得られる利益がどの程度あるか
現在の痛みの主な原因が本当に膝や股関節にあり、人工関節によってその生活障害が改善する可能性が高いかを評価します。
実際に人工関節手術を検討するタイミング
年齢にかかわらず、次のような状態では人工関節手術を検討することがあります。
- 歩くと強く痛む
- 夜間痛がある
- 歩行距離が短くなっている
- 階段や買い物が難しい
- 旅行や趣味を諦めている
- 薬や注射などの保存治療で十分な改善が得られない
反対に、レントゲンの変形が強くても、痛みが軽く日常生活に大きな支障がなければ、すぐ手術を行わないこともあります。
当センターでの人工関節手術の考え方
京都ルネス病院人工関節センターでは、年齢だけを理由に手術の可否を決めていません。
若い患者さんでは将来の再置換リスクを考え、高齢の患者さんでは全身状態や現在の身体機能、手術によって得られる利益を考えます。
実際に当センターでは、90歳以上の患者さんに人工関節手術を行い、術後に歩行能力を回復して退院された例があります。
一方で、年齢が若くても、痛みの原因や全身状態、現在の生活への支障などを踏まえて手術を勧めないこともあります。
大切なのは「何歳か」ではなく、「その患者さんにとって今、手術を行う利益がリスクを上回るか」です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 人工関節手術は何歳まで受けられますか?
一律の年齢上限はありません。80代・90代でも、全身状態や身体機能、生活への支障などを評価したうえで手術を検討することがあります。
Q2. 90歳でも人工関節手術はできますか?
90歳以上でも年齢だけで手術の対象外にはなりません。ただし、若い患者さんより周術期リスクが高くなるため、全身状態や併存疾患などを慎重に評価します。詳しくは90歳以上の人工関節手術についての解説をご覧ください。
Q3. 若いうちに人工関節手術をすると損ですか?
若いほど将来の再置換手術を考える必要はありますが、強い痛みや生活障害を何年も我慢することが必ずしも良いとは限りません。年齢と現在得られる利益の両方を考えて判断します。
Q4. 高齢なら手術をしない方が安全ですか?
必ずしもそうではありません。手術のリスクに加え、関節痛によって歩行能力や自立した生活を失っていくリスクも考える必要があります。
Q5. 手術をするか迷っていても受診できますか?
可能です。手術を受けることを決めてから受診する必要はありません。現在の状態を確認し、保存治療を続けるのか、人工関節を検討する段階なのかを整理することができます。
まとめ
- 人工関節手術に一律の年齢上限はない
- 50代・60代では将来の再置換リスクも考える
- 80代・90代では全身状態や現在の身体機能をより重視する
- 「手術するリスク」と「手術しないことで生活機能を失うリスク」の両方を考える
- 年齢ではなく、手術によって期待できる利益とリスクを総合して判断する
ご相談・診療について
「自分の年齢でも人工関節手術を受けられるのか」「まだ若いから待つべきなのか」「高齢だから手術は難しいのか」と迷っている方は、外来で現在の状態や治療選択肢についてご相談いただけます。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
- Mortality and complication rates in nonagenarians and octogenarians undergoing total hip and knee arthroplasty: a systematic review and meta-analysis. Eur Geriatr Med. 2022.
- Contemporary Mortality Rate and Outcomes in Nonagenarians After Primary Total Knee Arthroplasty. J Arthroplasty. 2021.
- Contemporary Mortality Rate and Outcomes in Nonagenarians Undergoing Primary Total Hip Arthroplasty. J Arthroplasty.
※人工関節手術の適応や周術期リスクは、年齢、全身状態、基礎疾患、症状、術式などによって異なります。本記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。

コメント