この記事でわかること
- 大腿骨頸部骨折とはどんな骨折か?
- 若年者で骨頭温存とTHA(人工股関節)をどう選ぶか
- 人工骨頭(BHA)では不十分なケースとは?
- 軽微な外傷で骨折した場合に考えるべき「骨粗鬆症」
- 再発予防と長期経過を良くするための治療方針
大腿骨頸部骨折とは?
股関節の付け根(大腿骨の首の部分)が折れる骨折です。高齢者に多い骨折として知られていますが、若年者でも転倒・交通事故・スポーツ外傷などで発生します。
折れた位置によって血流が失われやすく、例え骨接合手術をしても骨頭が壊死してしまうという難しい特徴があります。
若年者で骨頭温存とTHAをどう選ぶか
大腿骨頸部骨折には、主に次の治療法があります。順番に進めるのではなく、年齢、骨折のずれ(転位)、受傷の状況、骨質、受傷前の股関節の状態などから選びます。若年成人では、まず自分の骨頭を残す骨接合を重視します。
- 骨接合(スクリュー・プレート)
- 人工骨頭置換術(BHA)
- 人工股関節置換術(THA)
ただし、転位の大きな大腿骨頸部骨折では、骨癒合不全・骨頭壊死のリスクがあり、骨接合後に追加の手術が必要になることがあります。
骨接合の問題点
- 血流障害により骨頭壊死が発生すると再手術が必要になる
- 痛みが取れにくいこともある
では人工骨頭(BHA)はどうか?
人工骨頭は片側(大腿骨側)のみを置き換える方法です。長期的には骨盤側の軟骨の摩耗が問題になることがあり、人工関節による治療を選ぶ場合、活動性や全身状態などを踏まえてBHAとTHAを比較します。THAがすべての患者さんに優れるわけではありません。
THAを選択する医学的根拠と年齢の範囲
2022年のランダム化比較試験では、55〜70歳の低エネルギー外傷による転位型大腿骨頸部骨折を対象に、骨接合とTHAを比較しています。大きな再手術は骨接合群の51%に対してTHA群では4%と大幅に少なく、疼痛・満足度・一部の機能指標でもTHA群が良好でした。主要評価項目である12か月時点の股関節機能スコアの群間差は、研究で定めた「臨床的に意味のある差」には達していませんが、再手術率の大きな差を否定するものではありません。
ただし、この結果を20〜40代を含む若年成人全体に、そのまま当てはめることはできません。若年成人では、骨頭を残す利益と、骨癒合不全・骨頭壊死による再手術のリスクを比較する必要があります。
そのため、年齢や早期復職の希望だけでTHAを決めるのではなく、骨頭温存が見込めるか、骨折や骨の状態、本人の生活背景を総合して判断します。
「軽微な外傷」で起こった場合は骨粗鬆症の検査が必須
若年者で大腿骨頸部骨折が起こる原因は2つ:
- 大きな外傷(交通事故・転落)
- 軽微な外傷(尻もち・段差でつまずく)
特に軽微な外傷で骨折した場合は、骨粗鬆症を強く疑う必要があります。
骨粗鬆症の診断・治療を怠ると:
- 対側の股関節・脊椎骨折を起こすリスクが高い
- 将来の寝たきりリスクが上昇
- 人工関節周囲骨折の危険も増える
必要な検査
- 骨密度検査(DXA)
- 血液検査(骨代謝マーカーなど)
必要な治療
- ビスホスホネート
- デノスマブ
- テリパラチド(骨形成促進)
- ビタミンD・カルシウム補充 など
よくある質問(FAQ)
Q1. 若いのに人工股関節にして大丈夫?
A. 若年でもTHAが必要な場合はありますが、骨頭温存との比較が大切です。人工関節の長期成績は、年齢・手術理由・インプラントなどで異なり、20〜30年の耐久性を個人に保証するものではありません。現代THAの30年成績には、観察データを延長した予測も含まれます。
Q2. 仕事復帰はどれくらいで可能?
A. 当センターでは、通常通り手術を終え、術後経過に問題がない場合、一律の復職時期は設けていません。痛み、歩行状態、通勤方法、仕事内容などを確認しながら、最終的にはご本人の状態と希望に応じて決めます。デスクワークであっても、術後すぐの復職を一律に保証するものではありません。
Q3. スポーツはできますか?
A. 当センターでは、術後経過に問題がない場合、3か月頃を一つの目安としてスポーツ復帰を検討しています。ただし、すべてのスポーツを3か月で一律に許可するという意味ではありません。水泳や自転車などの低impact sportと、ジョギングや接触・跳躍を伴う高impact sportは分けて考え、競技種目、術前経験、筋力、バランス、術後経過に応じて個別に判断します。
まとめ
- 転位を伴う大腿骨頸部骨折は骨接合をしても骨頭壊死のリスクが高い
- 若年成人では骨頭温存を重視し、骨折の状態や年齢層によってTHAも検討する
- 軽微な外傷の場合は骨粗鬆症の精査・治療が必須
- THAにより早期の歩行・社会復帰が期待できる
当センターでは、年齢・骨の状態・生活背景を総合的に判断し、最適な治療選択を行っています。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献
- Stockton DJ, et al. High rate of reoperation and conversion to total hip arthroplasty after internal fixation of young femoral neck fractures: a population-based study of 796 patients. Acta Orthop. 2019;90:21–25. 原著(18〜50歳の骨接合後コホート)
- Bartels S, et al. Total Hip Arthroplasty Leads to Better Results After Low-Energy Displaced Femoral Neck Fracture in Patients Aged 55 to 70 Years: A Randomized Controlled Multicenter Trial Comparing Internal Fixation and Total Hip Arthroplasty. JBJS Am. 2022;104:1341–1351. PubMed(抄録)
- NICE. Hip fracture: management (CG124), recommendation 1.6.3. THAと人工骨頭の選択
- Pentland V, et al. Survivorship of modern total hip replacement to 30 years. Lancet. 2026;407:855–866. PubMed(抄録・外挿を含む)
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. Activities After Total Hip Replacement. 仕事・運動への復帰
