変形性膝関節症の治療として、「PRP療法」や「脂肪由来の細胞を用いた治療」を耳にする機会が増えています。「手術をせずに膝の痛みを改善できるのか」「すり減った軟骨が再生するのか」と期待される方も少なくありません。
一方で、これらの治療については研究が進んでいるものの、痛みや機能の改善が期待できることと、変形性膝関節症そのものを治したり、失われた軟骨を元通りに再生したりすることは別の問題です。
この記事では、PRP(多血小板血漿)療法と脂肪由来細胞治療について、現在報告されている研究結果をもとに、期待できること・まだ分かっていないこと・人工関節専門医としての考え方を整理します。
この記事でわかること
- PRP療法とはどのような治療なのか
- PRPで膝の痛みは改善する可能性があるのか
- 脂肪由来幹細胞・脂肪由来細胞治療にはどのような研究結果があるのか
- 「軟骨が再生する」と考えてよいのか
- 人工関節手術との関係をどう考えるべきか
PRP療法とは?
PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)療法は、患者さん自身の血液を採取し、遠心分離などによって血小板を多く含む血漿成分を抽出し、膝関節内などに投与する治療です。
血小板にはさまざまな成長因子や生理活性物質が含まれており、これらが関節内の炎症反応などに影響することで、疼痛や関節機能が改善する可能性が研究されています。
ただし、PRPには作製方法、血小板濃度、白血球の含有量、注射回数などに大きな違いがあります。そのため、「PRP」という名称だけで、すべて同じ治療と考えることはできません。
PRPは変形性膝関節症の痛みに効果がある?
近年のランダム化比較試験をまとめたメタ解析では、変形性膝関節症に対するPRP関節内注射により、プラセボや他の関節内注射と比較して、一定期間の疼痛や関節機能が改善する可能性が報告されています。
2025年にAmerican Journal of Sports Medicineに掲載されたランダム化比較試験のメタ解析でも、PRPによる改善は統計学的な差だけではなく、患者さんが実感できる臨床的な改善につながる可能性が示されました。また、PRP中の血小板濃度など、製剤の違いが結果に影響する可能性も報告されています。
一方で、研究ごとにPRPの作製方法や投与法、対象患者が異なるため、結果にはばらつきがあります。国際的な診療ガイドラインでもPRPに対する評価は一様ではなく、標準化されていないことが大きな課題です。
PRPに期待されていること
- 膝の痛みの軽減
- 関節機能の改善
- 一定期間、症状改善が持続する可能性
PRPについて、まだ分かっていないこと
- どのPRP製剤・投与方法が最も効果的なのか
- どの患者さんが最も良い適応なのか
- 長期的に変形性膝関節症の進行を抑制できるのか
- 失われた関節軟骨を臨床的に意味のある形で再生できるのか
PRPで「すり減った軟骨が再生する」と考えてよい?
現時点では、「PRPを注射すれば、変形性膝関節症ですり減った軟骨が元通りに再生する」と説明するのは適切ではありません。
PRPについて報告されている臨床的なメリットの中心は、主に疼痛や関節機能の改善です。これと、レントゲンやMRIで確認できる関節構造そのものの改善は分けて考える必要があります。
「再生医療」という言葉から、傷んだ膝が元の状態に戻るような印象を持つ方もいますが、現在の科学的根拠では、そこまで断定することはできません。
脂肪由来幹細胞・脂肪由来細胞を用いた治療とは?
脂肪組織には、間葉系間質細胞/間葉系幹細胞(mesenchymal stromal/stem cells:MSCs)を含むさまざまな細胞が存在します。
変形性膝関節症に対しては、脂肪組織から採取した細胞を培養して投与する方法や、stromal vascular fraction(SVF:間質血管細胞群)などを利用する方法が研究されています。
ここで注意が必要なのは、「脂肪由来幹細胞治療」と呼ばれる治療がすべて同じものではないという点です。細胞の採取方法、培養の有無、細胞数、処理方法などによって内容は大きく異なります。
脂肪由来幹細胞治療にはどの程度のエビデンスがある?
この分野でも臨床研究は進んでいます。
2023年にAmerican Journal of Sports Medicineに報告されたPhase III多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、Kellgren-Lawrence grade 3の変形性膝関節症患者261人を対象として、自家培養脂肪由来間葉系幹細胞(ADMSC)の関節内投与が検討されました。
6か月時点では、ADMSC群でプラセボ群より疼痛(VAS)と関節機能(WOMAC)が有意に改善しました。
しかし重要なのは、MRIで評価した軟骨欠損の変化には、6か月時点で両群間の有意差が認められなかったことです。
つまり、この研究からは「痛みや機能を改善する可能性」は示されていますが、「傷んだ軟骨を再生させた」「変形性膝関節症そのものを治した」とまでは言えません。
2024年のsystematic review・meta-analysisでも、自家培養ADMSCやSVFによる疼痛・関節機能改善の可能性が報告されています。一方、研究によって細胞の処理方法や対象患者、評価法が異なり、長期的な有効性や最適な治療方法については、今後さらに検証が必要です。
期待されていること
- 疼痛の軽減
- 関節機能の改善
- 関節内の炎症環境などに影響する可能性
現時点で慎重に考えるべき点
- 治療法が標準化されていない
- 長期成績が十分に確立されていない
- 症状改善と軟骨再生は同じ意味ではない
- 治療内容や費用が施設によって大きく異なる
PRPと脂肪由来細胞治療をどう考えればよい?
| 項目 | PRP | 脂肪由来細胞治療 |
|---|---|---|
| 主な材料 | 自分の血液 | 自分の脂肪組織由来の細胞など |
| 研究されている主な効果 | 疼痛・機能改善 | 疼痛・機能改善など |
| 治療法の標準化 | 十分ではない | 十分ではない |
| 軟骨再生 | 確立していない | 研究中。臨床的に確立したとは言えない |
| 変形性膝関節症を治癒させる治療か | 現時点では言えない | 現時点では言えない |
最も重要なのは、「再生医療」という名称だけで治療を選ばないことです。
変形性膝関節症では、年齢、変形の程度、痛みの原因、日常生活への影響、保存治療の効果などによって、適切な治療は異なります。
再生医療を受ければ人工関節手術を避けられる?
PRPや脂肪由来細胞治療を受ければ、将来的に人工関節手術を必ず避けられるという根拠はありません。
一方で、変形性膝関節症があるからといって、すぐに人工関節手術が必要になるわけでもありません。
痛みが軽く日常生活への影響が少ない場合は、運動療法、体重管理、薬物療法、ヒアルロン酸注射などの保存治療を続けることが基本です。
反対に、変形が進み、十分な保存治療を行っても痛みや歩行障害によって生活が大きく制限されている場合には、人工膝関節全置換術(TKA)や人工膝関節単顆置換術(UKA)などを検討することがあります。
治療名から選ぶのではなく、「現在の膝の状態で何を改善したいのか」「その治療によって何が期待でき、何が期待できないのか」を整理して判断することが重要です。
当センターの考え方
PRPや脂肪由来細胞治療は、変形性膝関節症に対する研究が進んでいる分野であり、今後さらに有効性や適応が明らかになる可能性があります。
一方で、新しい治療であることと、すでに標準治療として確立していることは同じではありません。
京都ルネス病院人工関節センターでは、現在PRP療法や脂肪由来細胞治療は行っていません。保存治療から人工関節手術まで、現在の症状・画像所見・生活への影響を総合的に評価し、手術を行わない選択肢も含めて治療方針を考えています。
「再生医療を受けるべきか迷っている」「人工関節を勧められたが、本当に手術が必要なのか分からない」という段階でもご相談いただけます。
よくある質問(FAQ)
Q1. PRPを受ければ膝の痛みは治りますか?
PRPによって疼痛や関節機能が改善する可能性は複数の研究で報告されています。ただし、すべての患者さんに効果があるわけではなく、製剤や投与方法によっても結果が異なります。
Q2. PRPの効果はどれくらい続きますか?
研究では3か月、6か月、12か月などの時点で症状改善が評価されていますが、効果の程度や持続期間には個人差があります。「必ず1年間効く」と考えることはできません。
Q3. PRPで軟骨は再生しますか?
現時点では、変形性膝関節症ですり減った軟骨をPRPによって元通りに再生できるという確立した臨床的エビデンスはありません。症状改善と軟骨再生は分けて考える必要があります。
Q4. 脂肪由来幹細胞を注射すると軟骨は再生しますか?
疼痛や関節機能改善を示した臨床試験はありますが、「失われた軟骨が元通りになる治療」とまでは言えません。2023年のPhase III試験でも症状改善は認められた一方、6か月時点のMRIで軟骨欠損の変化に有意差は認められませんでした。
Q5. 再生医療と人工関節手術のどちらを選べばよいですか?
単純に比較できる治療ではありません。変形の程度、痛みの原因、生活への影響、これまでの保存治療などによって判断が異なります。特に手術を勧められて迷っている場合は、まず現在の膝の状態と手術適応を正確に評価することが重要です。
まとめ
- PRPでは、変形性膝関節症の疼痛や関節機能を改善する可能性が複数の研究で報告されています。
- PRPの作製方法や投与方法は統一されておらず、すべての患者さんに同じ効果が期待できるわけではありません。
- 脂肪由来間葉系幹細胞についても疼痛・機能改善を示した臨床試験があります。
- 症状が改善することと、軟骨が再生することは別です。
- PRPや脂肪由来細胞治療によって、将来の人工関節手術を確実に回避できるとは証明されていません。
- 治療を選ぶ際には、治療名ではなく、現在の膝の状態と治療目標をもとに判断することが重要です。
ご相談・診療について
「再生医療を受けるべきか迷っている」「人工関節を勧められたが、本当に今手術が必要なのか知りたい」といった段階でも診察可能です。
実際に診察を行い、症状、レントゲンなどの画像所見、これまでに行った治療、日常生活への影響を確認したうえで、保存治療を継続するのか、手術を検討する段階なのかを一緒に考えていきます。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
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