この記事でわかること
- 大腿骨頸部骨折とはどんな骨折か?
- 若年者では骨接合ではなくTHA(人工股関節)が必要な理由
- 人工骨頭(BHA)では不十分なケースとは?
- 軽微な外傷で骨折した場合に考えるべき「骨粗鬆症」
- 再発予防と長期経過を良くするための治療方針
大腿骨頸部骨折とは?
股関節の付け根(大腿骨の首の部分)が折れる骨折です。高齢者に多い骨折として知られていますが、若年者でも転倒・交通事故・スポーツ外傷などで発生します。
折れた位置によって血流が失われやすく、例え骨接合手術をしても骨頭が壊死してしまうという難しい特徴があります。
若年者では「骨接合ではなくTHA」が必要になることがある理由
大腿骨頸部骨折の治療は通常、以下の順番で検討されます:
- 骨接合(スクリュー・プレート)
- 人工骨頭置換術(BHA)
- 人工股関節置換術(THA)
しかし転位の大きなの大腿骨頸部骨折は、骨癒合不全・骨頭壊死のリスクが高く、骨接合がうまくいかないケースが多いことが知られています。
骨接合の問題点
- 血流障害により骨頭壊死が発生すると再手術が必要になる
- 痛みが取れにくいこともある
では人工骨頭(BHA)はどうか?
人工骨頭は片側(大腿骨側)のみ人工関節に置き換える方法ですが、若年者では以下の理由から推奨されません:
- 骨盤側の骨が削れてしまう
- 数年〜で痛みが出て骨盤がわが変形し、再手術(THAへの変換)が必要になりやすい
- 最初からTHAを行う方が長期的に安定する
若年者でTHAを選択する医学的根拠
最近の研究では、若年者の大腿骨頸部骨折は初回からTHAを選択した方が再手術率が低く、患者満足度も高いことが明らかになってきています。
THAは以下の利点があります:
- 疼痛コントロールが良い
- 再手術(リビジョン)のリスクが低い
- 早期から歩行・社会復帰が可能
- 長期成績が安定している(20年以上の生存率も高い)
そのため、若年・活動性が高い・将来の社会復帰を急ぐケースでは、THAが合理的な選択肢になります。
「軽微な外傷」で起こった場合は骨粗鬆症の検査が必須
若年者で大腿骨頸部骨折が起こる原因は2つ:
- 大きな外傷(交通事故・転落)
- 軽微な外傷(尻もち・段差でつまずく)
特に軽微な外傷で骨折した場合は、骨粗鬆症を強く疑う必要があります。
骨粗鬆症の診断・治療を怠ると:
- 対側の股関節・脊椎骨折を起こすリスクが高い
- 将来の寝たきりリスクが上昇
- 人工関節周囲骨折の危険も増える
必要な検査
- 骨密度検査(DXA)
- 血液検査(骨代謝マーカーなど)
必要な治療
- ビスホスホネート
- デノスマブ
- テリパラチド(骨形成促進)
- ビタミンD・カルシウム補充 など
よくある質問(FAQ)
Q1. 若いのに人工股関節にして大丈夫?
A. 現代の人工関節は20〜30年以上の耐久性があり、長期成績は非常に良好です。むしろ骨接合の失敗による再手術リスクを避け、早期復帰を目指すことが重要です。
Q2. 仕事復帰はどれくらいで可能?
A. 個人差がありますが、術後の制限は設けていないため、特にデスクワークならすぐにでも復帰可能です。
Q3. スポーツはできますか?
A. 水泳・自転車・軽いジョギングなどは可能です。高衝撃スポーツも近年は許容される傾向にありますが、個別評価が必要です。
まとめ
- 転位を伴う大腿骨頸部骨折は骨接合をしても骨頭壊死のリスクが高い
- 若年者では人工骨頭よりも、最初からTHAを行う方が長期的に安定するケースが多い
- 軽微な外傷の場合は骨粗鬆症の精査・治療が必須
- THAにより早期の歩行・社会復帰が期待できる
当センターでは、年齢・骨の状態・生活背景を総合的に判断し、最適な治療選択を行っています。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。

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