【この記事でわかること】
- 股関節の痛みの原因には何があるのか?
- 変形性股関節症(OA)で痛みが起こる仕組み
- 神経、炎症、骨、脳の関与など、最新の痛み研究からわかっていること
- 画像所見と痛みが一致しない理由
股関節の痛みの原因は?
股関節痛の原因は多岐にわたります。たとえば:
- 変形性股関節症(OA)
- 臼蓋形成不全
- 股関節唇損傷
- 大腿骨頭壊死症
- 軟骨下骨折など
ここでは、最も多く見られる「変形性股関節症(OA)」に焦点を当てて解説します。
なぜ変形性股関節症で痛みが生じるのか?
変形性股関節症では、軟骨のすり減りや関節の変形が中心にある病気ですが、「痛み」の原因は以下のように複雑かつ多因子的であることが、近年の研究からわかってきました。
文献に基づく「痛みの発生メカニズム」
① 滑膜炎(関節内の炎症)
関節内の滑膜(かつまく)が炎症を起こすと、炎症物質(プロスタグランジン、サイトカインなど)が分泌され、神経を刺激して痛みが出ます。
- 股関節OAでも滑膜炎と疼痛の強さに相関があるとされ、MRIで滑膜の肥厚が確認されるケースもあります。
- 滑膜炎は早期から起こることがあり、腫れ感やズキズキした痛みの原因となります。
② 骨髄病変(Bone Marrow Lesion:BML)
軟骨がすり減ることで、関節の衝撃が骨の内部(軟骨下骨)に直接伝わるようになります。
これにより骨表面の微小損傷や骨髄内損傷が起こり、MRIで高信号領域として描出されます。
- BMLは、深部にズーンと響くような痛みの原因です。
- 骨内圧の上昇や微小骨折による神経刺激が関与します。
③ 神経の異常
本来神経のない関節軟骨、軟骨下骨や関節唇の内部に神経が伸びてくることがあります。
また、慢性の痛みによって神経が過敏になり、軽い刺激でも痛みとして感じてしまうことが起こることも知られています。
文献によると、股関節OA患者に神経障害性疼痛が存在すると報告されています。
④ 軟部組織や筋の拘縮
進行したOAでは、関節包や筋が硬くなり、動かしたときに引っ張られるような痛みが出ます。
大腿筋膜張筋、腸腰筋、梨状筋など周囲筋とのバランスも痛みに関与します。
レントゲンで「異常がある=痛い」とは限らない
- 実際には、レントゲンで進行していても痛くない人もいれば、初期でも強い痛みを感じる人もいます。
- これは、炎症・神経・中枢の感受性の違いによって生じる個人差です。
よくある質問(FAQ)
Q1. レントゲンで異常なしと言われたけど痛いのはなぜ?
A1. MRIなどで見ると滑膜炎や骨髄病変(BML)などが見つかることがあります。レントゲンは骨の形状しか見えません。
Q2. 鎮痛薬が効かないのはなぜ?
A2. 骨の損傷だけでなく、神経が過敏になっている「神経障害性疼痛」や「中枢性感作」が関与している可能性があります。神経の働きを調整する薬が必要なこともあります。
Q3. どういう治療が効果的なの?
A3. 痛みの原因によって治療を変える必要があります。
- 滑膜炎 → 抗炎症薬や注射
- BML → 負荷軽減
- 神経の痛み → 薬物療法
- 最終的には人工股関節などの手術
ご相談・診療について
「どこが痛いのか」「なぜ痛いのか」を見極めることで、より効果的な治療が可能になります。
股関節の痛みにお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
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