変形性膝関節症(膝OA)の治療として「筋力訓練が大切」と聞いたことがある方は多いと思います。 実際、筋力訓練は膝OAの治療において重要な役割を果たしますが、万能ではありません。 本記事では、科学的根拠(エビデンス)に基づいて、筋力訓練の効果と限界、さらに人工関節手術との関係について解説します。
なぜ変形性膝関節症では筋力が重要なのか
膝関節は体重を支える関節であり、歩行や階段昇降の際には体重の数倍の負荷がかかります。 この負荷を和らげているのが、主に大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)です。
膝OAでは、痛みによって動く量が減り、その結果として筋力が低下しやすくなります。 すると次のような悪循環が生じます。
- 膝が痛い → 動かさない
- 動かさない → 筋力低下
- 筋力低下 → 膝関節への負荷増大
- 負荷増大 → さらに痛みが増す
この悪循環を断ち切る手段の一つが筋力訓練です。
筋力訓練は膝の痛みを改善するのか?【エビデンス】
結論から言うと、筋力訓練は膝OAの痛みや機能を改善することが科学的に証明されています。
複数のランダム化比較試験やメタアナリシスにより、以下の点が明らかになっています。
- 大腿四頭筋を中心とした筋力訓練は、膝OAの疼痛を有意に軽減する
- 歩行能力や日常生活動作が改善する
- 有酸素運動と比較しても、筋力訓練は同等またはそれ以上の効果を示す
ただし重要なのは、筋力訓練によって軟骨や関節の変形が元に戻るわけではないという点です。
筋力訓練で人工関節手術は避けられるのか?
この質問に対する答えは「患者さんの状態による」です。
筋力訓練が特に有効なケース
- 初期〜中期の変形性膝関節症
- レントゲンで関節裂隙がある程度保たれている
- 痛みの主因が筋力低下や不安定性である場合
これらの場合、筋力訓練によって痛みが軽減し、手術を先延ばしできる可能性があります。
筋力訓練の限界があるケース
- 関節裂隙がほぼ消失している
- 骨の変形が高度
- 荷重時痛や夜間痛が強い
この段階では、筋力訓練を行っても痛みの根本的改善が得られにくいことが多く、 人工膝関節置換術(TKA)が現実的な選択肢となります。
人工膝関節手術と筋力訓練の関係
手術前の筋力訓練(プレハビリテーション)
術前に筋力を保っている患者さんは、以下の点で有利とされています。
- 術後の歩行回復が早い
- 立ち上がりや階段動作の回復が良好
- 入院期間が短くなる傾向
手術後の筋力訓練(リハビリテーション)
人工膝関節手術後の筋力訓練は必須です。
適切なリハビリを行わないと、
- 歩けるが力が入らない
- 転倒リスクが高い
- 満足度が低下する
といった問題が生じる可能性があります。
よくある誤解
「筋トレをすれば人工関節は不要になる」
誤りです。筋力訓練は痛みを和らげる手段であり、壊れた関節を元に戻す治療ではありません。
「手術をしたら筋トレは意味がない」
これも誤りです。むしろ、術前・術後の筋力訓練が回復を大きく左右します。
まとめ
- 筋力訓練は膝OAの痛みと機能改善に有効
- ただし、進行した変形を治すことはできない
- 人工関節手術を遅らせることはできても、代替できないケースもある
- 手術前後の筋力訓練は回復を早める重要な要素
ご相談・診療について
「筋力訓練を続けるべきか、手術を検討すべきか」は、自己判断が難しいポイントです。
当センターでは、レントゲン評価、筋力評価、歩行能力、生活背景を総合的に判断し、 今その方に最適な治療方針をご提案しています。
膝の痛みでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。

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