関節リウマチと人工関節手術:炎症性関節での置換術の実際と注意点
この記事でわかること
- 関節リウマチ(RA)における関節破壊と人工関節適応
- RA患者でのTKA/THA実績とリスク差
- 手術成功のための前準備・術中・術後戦略
- 最新技術導入や改善点、将来展望
- 報道事例(高市早苗氏)に対するファクトチェック
1. 関節リウマチ(RA)が関節に及ぼす影響
関節リウマチは、免疫系が関節の滑膜を攻撃する自己免疫疾患です。滑膜炎が持続すると、炎症性サイトカインが軟骨・骨を破壊し、骨びらん・骨硬化・関節の変形を引き起こします。その結果、疼痛・可動域制限・運動機能低下が進行することが多いです。
2. RA患者に人工関節を行う意義と適応
2.1 なぜRAでも人工関節が選択肢となるのか
進行したRAでは、変形や破壊が高度になり、保存療法(薬・リハビリ・装具)では十分な改善が得られない例があります。こうした場合、人工関節手術は疼痛軽減と機能改善の確実な手段となります。
2.2 適応判断のポイント
- 疼痛が著明で日常生活を著しく制限している
- 関節破壊・変形が進行しており、X線・MRIで関節構造破綻が確認される
- リウマチ活動性を可能な限り抑制できていること
- 全身状態・免疫抑制治療下でも手術耐性があると判断されること
3. RA患者での人工関節手術:実績とリスク
3.1 TKA/THAにおける合併症・成績差
複数の報告によると、RA患者では術後感染、骨折、創部合併症のリスクがやや高い傾向があります。しかしながら、再置換率・ゆるみ・死亡率においては、必ずしもOA患者と有意差がないとする報告も多くあります。
たとえば、24件の研究を系統的に解析した報告では、RA患者のTKA術後リスクは高くなる面もあるが、再置換に関して顕著な悪化傾向は確認されなかったという結論が示されています。
(出典:PMC10262433)
3.2 長期成績 — 生存率・耐久性
RA患者での長期追跡研究では、TKAにおけるインプラント生存率は10年で81〜97.7%という広い範囲で報告されています。
(出典:PMC3341816)
また、THAに関しても近年は、HXLPEベアリングなどの改良材料を用いた場合、RA患者でも中期耐久性が良好であるという報告があります。
(出典:PMC10386849)
4. 手術成功のための戦略・注意点
- 炎症活動性のコントロール:可能な限り低活動期での手術実施
- 薬剤管理:生物学的製剤・DMARDs・ステロイドの中断・再開時期を慎重に調整
- 骨質評価:骨密度検査・骨補填材併用など柔軟な設計選択
- 術式および設置精度:ゆるみを出さない適切な設計・手技
- 術後のリハビリ・管理:骨保護(骨粗鬆症対策)、感染予防、早期離床
5. 改善点と将来展望
近年、改良ポリエチレンなどの技術進歩により、RA患者でも安全性と耐久性が向上しています。たとえば、炎症性関節炎患者におけるTHAで、HXLPE使用下に良好な中期生存率が確認された報告があります。
(出典:PMC10386849)
RA患者特有のリスク管理技術(免疫抑制下での手術戦略、骨補填併用設計など)は、今後さらに発展が期待されます。
最近では、真偽は不明でありますが高市早苗氏が関節リウマチで人工関節手術を受けたような報道もあるように、誰でもが罹患する可能性のある疾患であります。今後も新たな治療方法の開発が期待されます。
FAQ(よくある質問)
Q1. RAだから人工関節は受けられませんか?
A1. いいえ、炎症コントロール・骨質評価・薬剤管理などが適切に行われれば、RA患者でも人工関節は十分に選択肢になります。
Q2. RAでは人工関節の寿命が短くなりますか?
A2. 若干リスク上昇の報告はありますが、再置換・ゆるみの統計的差は明確でない報告もあり、改善技術の進歩により十分な耐久性が期待されています。
Q3. 手術時の薬の扱いはどうなりますか?
A3. 手術前後の免疫抑制薬の中断・再開は、リウマチ専門医との連携で安全性を担保しながら判断されます。
まとめ
関節リウマチ患者における人工関節手術は、炎症性疾患ゆえの追加リスクを伴いますが、技術の進歩と適切な管理をもって、疼痛軽減・機能改善・QOL向上を実現できる有力な治療戦略です。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。

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