人工股関節置換術(THA)における後方系・前方系アプローチの違いをわかりやすく解説します。当センターで採用しているALS(前外側仰臥位アプローチ)の特徴や利点についても紹介します。
目次
THAの各種アプローチ
人工股関節置換術(THA)は、進行した変形性股関節症や大腿骨頭壊死などに対する有効な治療法です。その際に重要となるのが「アプローチ(切開方法)」です。THAには主には後方系・前方系の2つに分けられ、それぞれに特徴や利点・欠点があります。
後方系アプローチ(Posterior Approach)
- 一般的には後方の筋肉や関節包を切離し、後方から股関節に到達する方法
- 利点:展開が容易で視野が広い、習得しやすい
- 欠点:術後脱臼率が比較的高いとされ、特に後方脱臼リスクに注意が必要
前方系アプローチ
- 筋肉を切らずに間隙から進入する「筋間アプローチ」
- 利点:筋損傷が少なく、術後回復が早い。
- 欠点:展開が技術的に難しく、習得に時間を要する
ALS(Anterior Lateral Supine Approach:前外側仰臥位アプローチ)の特徴
当センターで採用しているのは、ALS(前外側仰臥位アプローチ)です。これは前方系の一種でありながら、以下の特徴を持ちます。
- 仰臥位で行うため、両下肢の比較が容易 → 術中に脚長差を直接確認できる
- Functional Pelvic Plane(FPP:機能的骨盤平面)を基準に展開することで、カップ設置角度を正確に評価できる
- 筋間アプローチであり、筋肉を切らない
- 出血や脱臼のリスクが少ない
- 傷跡が小さい(約8cm)
ALSの利点まとめ
- 脚長差を術中に容易に確認でき、脚長調整の精度が高い
- FPPを基準とした正確なインプラント設置が可能
- 筋を切らなず傷も小さいため(約8cm)、術後回復が早い
- 脱臼のリスクは非常に低い(記事執筆時点で当院での脱臼は0例)
当センターの取り組み
当センターでは、センター長である藤井嵩が全てのTHAを執刀しており、豊富な手術経験に基づいてALSを用いた安全で精度の高い人工股関節置換術を行っています。脚長差や脱臼リスクを抑えつつ、患者様にとって快適な術後生活を目指しています。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
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https://doi.org/10.1530/EOR-22-0030 - Ito H, et al. Anterior-based muscle-sparing approach for total hip arthroplasty in Japan: An overview and update. J Orthop Sci. 2020;25(5):799–806.
https://doi.org/10.1016/j.jos.2020.04.013 - Widmer KH, Zurfluh B. Compliant positioning of total hip components for optimal range of motion. Clin Orthop Relat Res. 2004;(418):122-130.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15021135/

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