膝の痛みに対する再生医療、PRP(多血小板血漿)療法や脂肪由来幹細胞注射について整形外科専門医が解説します。効果、エビデンス、日本での位置づけをわかりやすく紹介します。ここでは、京都ルネス病院人工関節センター長として臨床に携わると同時に、大阪大学医学部附属病院未来医療開発部未来医療センターでも先進的な医療機器や新しい治療法の研究にも関わっています。その経験をもとに、CooliefやIoveraといった新しい治療法についても常に情報をアップデートしながら、患者様に最適な治療を提供できるよう努めています。
再生医療
膝の痛みに対して「PRP療法」や「脂肪由来幹細胞注射」など、再生医療と呼ばれる新しい治療法が注目を集めています。ここでは、整形外科専門医・人工関節認定医の立場から、これらの治療について現時点での科学的根拠や位置づけを解説します。
PRP療法とは?
PRP(Platelet-Rich Plasma=多血小板血漿)療法は、患者さん自身の血液から血小板を濃縮し、関節内に注射する治療法です。血小板に含まれる成長因子が組織修復を促すと考えられています。
期待される効果
- 炎症を抑える効果
- 痛みの軽減
- 関節機能の改善(報告例あり)
限界と注意点
- 効果は数か月〜1年程度とされる
- 変形した軟骨を再生する明確なエビデンスは現時点ではない
- 保険適応外であり、自費診療(自由診療)となる
脂肪由来幹細胞注射とは?
脂肪組織から採取した幹細胞を加工し、膝関節に注射する治療法です。幹細胞が分泌する成長因子や抗炎症作用によって関節の環境を改善することが期待されています。
期待される効果
- 炎症の抑制
- 軟骨保護作用が期待されている
限界と注意点
- 国内外で臨床研究は進められているが、長期的な効果や安全性のエビデンスはまだ十分でない
- 臨床的に意義のあるレベルでの軟骨再生は難しい
- 日本では保険適応がなく、自費診療となる
- 施設や医師によって治療内容・費用が大きく異なる
日本での位置づけ
- PRP療法:保険適応なし
- 脂肪由来幹細胞注射:保険適応なし
当センターの立場
PRPや脂肪由来幹細胞注射は将来性のある分野ですが、現時点では保険適応もなく、当センターでは標準的な保存療法や人工関節置換術を中心に治療を行っています。新しい治療法も常に注目しつつ、患者様に最も安全で確実な方法をご提案することを大切にしています。
FAQ(よくある質問)
Q1. PRP療法はどれくらい効果が続きますか?
A. 数か月から1年程度とされます。効果には個人差があります。
Q2. 脂肪由来幹細胞注射で軟骨は再生しますか?
A. 現時点では、軟骨を完全に再生させるという明確なエビデンスはありません。主に炎症を抑える効果が期待されています。
Q3. これらの治療は保険で受けられますか?
A. いいえ。いずれも日本では保険適応外であり、自費診療となります。
まとめ
- PRP療法:血小板由来の成長因子を利用する治療。痛み軽減効果が報告されているが、保険適応なし。
- 脂肪由来幹細胞注射:幹細胞の働きを利用する治療。臨床研究中であり、日本では自費診療のみ。
- いずれも将来性はあるが、現時点では保険適応ではない。
当センターでは、上記治療を行っておりませんが、患者様の状態に合わせて最適な治療法をご提案いたします。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター長として臨床に携わると同時に、大阪大学医学部附属病院未来医療開発部未来医療センターでも先進的な医療機器や新しい治療法の研究にも関わっているセンター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
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