変形性膝関節症に対する新しい治療法
近年、膝の痛みに対する新しい治療法として「ラジオ波治療(Coolief)」や「Cryoneurolysis(Iovera)」が注目されています。ここでは、京都ルネス病院人工関節センター長として臨床に携わると同時に、大阪大学医学部附属病院未来医療開発部未来医療センターでも先進的な医療機器や新しい治療法の研究にも関わっています。その経験をもとに、CooliefやIoveraといった新しい治療法についても常に情報をアップデートしながら、患者様に最適な治療を提供できるよう努めています。また、整形外科専門医・人工関節認定医という立場からも、それぞれの特徴と位置づけについて解説します。
Coolief(クーリーフ)とは?
Cooliefは、Cooled Radiofrequency Ablation(冷却型ラジオ波焼灼術, CRFA)と呼ばれる治療機器です。膝関節周囲の痛みを伝える神経の一部に高周波を流し、神経を熱変性させて痛みの伝達を抑えます。機械に冷却機能を持たせることで、従来のラジオ波よりも「広い範囲の神経」に作用させることができるのが特徴です。
効果と持続期間
- 膝の痛みが半年〜1年程度改善すると報告されています
- 痛みを伝える神経は再生するため、再施術が必要になるケースもあります
- 効果は報告で確認されていますが、根本的に変形や炎症を治すものではありません
リスク・合併症
- 施術部位の熱傷、しびれや違和感など
- 膝関節の変形進行を止めるわけではありません
日本での位置づけ
2023年に日本で保険適応となり、限られた施設で実施されています。手術を受けられない患者さんに一つの選択肢として用いられます。
Cryoneurolysisとは?
同様に神経の痛みを遮断する方法として、Cryoneurolysisと呼ばれる治療法も注目されています。心臓の領域などでは日本でもこのcryoの技術は保険適応となっており確立された技術です。根本原理としてはジュール・トムソン効果(Joule-Thomson effect)を用いています。神経を、冷却によってWaller変性を起こすことで神経伝達を一時的に遮断し、痛みを和らげます。
- 効果は一時的で、数か月程度持続。神経を焼くわけではないため可逆性であり安全性は高い。
- 日本には未導入で、海外では良好な臨床成績の報告もされています
- 手術前後の痛み緩和などにも利用されるケースがあります
当センターの立場
CooliefやIoveraは、膝の痛みに対する「新しい治療選択肢」として注目されています。ただし現時点では、効果の持続や再治療の必要性、長期成績が不明など課題も残っています。当センターでは、保存療法から人工関節置換術まで、科学的根拠に基づいた治療を提供しています。新しい治療法についても理解を深めながら、患者様に最適な選択肢をご提案いたします。
FAQ(よくある質問)
Q1. Cooliefはどのくらい効果が続きますか?
A. 一般的に半年〜1年程度とされています。神経が再生するため、再施術が必要になることもあります。
Q2. Cooliefは保険で受けられますか?
A. はい。2023年に日本で保険適応となりました。ただし、実施できる施設は限られています。当院では行っておりません。
Q3. Ioveraとの違いは何ですか?
A. Cooliefはラジオ波を用いて高温で神経を熱変性させるのに対し、Ioveraは冷却によりWaller変性を起こす点が異なります。どちらも効果は一時的ですが、ioveraの方が持続時間は短いとされています。
まとめ
- Coolief:2023年に日本で保険適応。膝の痛みに対して半年〜1年の効果が期待できる
- Iovera:冷却で神経を変性させる治療法。日本未導入で自費診療
- いずれも「痛みを和らげる」治療であり、変形性膝関節症の進行そのものを止めるわけではありません
当センターでは、上記治療は現時点では行っておりませんが、将来的には大きな可能性を持つ分野だと考えています。手術をせずに痛みが軽減するという点は素晴らしい治療法です。ただし現時点では、効果の持続や再治療の必要性など課題も残っています。
当センターでは、保存療法から人工関節置換術まで、科学的根拠に基づいた治療を提供しています。
新しい治療法についても理解を深めながら、患者様に最適な選択肢をご提案いたします。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター長として臨床に携わると同時に、大阪大学医学部附属病院未来医療開発部未来医療センターでも先進的な医療機器や新しい治療法の研究にも関わっているセンター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
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