【この記事でわかること】
- 人工股関節置換術(THA) 手術後に「してはいけない姿勢」はあるのか?
- なぜ脱臼リスクがあると言われてきたのか?
- 当院の術式では禁忌肢位を設けていない理由
- 普段の生活で安心してできる動作とは?
THA後に「してはいけない姿勢」って本当にあるの?
インターネットや他院の説明で、こんな言葉を目にしたことはありませんか?
「股関節を90度以上曲げてはいけません」
「あぐらをかいてはいけません」
「脚を組むのは危険です」
「ベッドに寝る向きまで制限される」
これらはすべて、「脱臼(だっきゅう)リスクを減らすための動作制限」です。
なぜTHA後に脱臼が起こるのか?
人工股関節は、金属やセラミック・ポリエチレンなどからできた球状の関節に手術で入れ替える治療です。
術後は、筋肉や関節包の回復が不十分で関節が外れやすい(脱臼)リスクがあります。
特に後方アプローチ(後ろからの手術)では、関節後方の支持が弱くなりやすく、後方脱臼が起こりやすいとされてきました。
しかし、当院では「基本的に姿勢制限は不要」です
Q. なぜ姿勢の制限を設けていないのですか?
当院では、以下のようなリスクの少ない手術方法を標準術式としています:
- 仰臥位(あおむけ)での前からのアプローチ(ALS法)
▶ 筋肉を切らず、靭帯も極力切らず、股関節を前側から安全に展開する方法です。 - 脱臼リスクが低い術式として世界的にも認められています。
- 当センターでは、脱臼しないかどうかを、手術中に十分な確認を行なっております。
- 術後の動作制限(禁忌肢位)を原則設けていません。
実際にどんな姿勢ならOKなの?
A.どんな姿勢でも構いません。
脱臼が心配な方へ
脱臼は0%ではないものの、当院の術式・インプラント・術後指導を通じて極めて稀な合併症となっています。
2025年9月時点で、当センターで執刀したTHA後の脱臼は0%です。
H2: よくある質問(FAQ)
Q1.THA後に布団で寝てはいけませんか?
A1. 仰臥位アプローチでは、布団でも問題ありません。立ち上がりにくい場合はベッドを推奨するだけです。
Q2. 階段はいつから使えますか?
A2. 動けるようであればすぐにでも使っていただきます。
Q3. 病院によって「動作制限」が違うのはなぜ?
A3. 術式(前方 or 後方)、インプラントの種類、医師の経験により考え方が異なるためです。
当院では、動作制限をせずに、脱臼もしない方法を追求しています。
ご相談・診療について
「術後の生活が不安」「動作制限がつらい」「どの手術法がよいのか迷っている」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。
ご本人の生活スタイルや希望に合わせた術式選択をご提案します。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
参考文献・出典
- Guo J, He Q, Sun Y, Liu X, Li Y. No need for hip precautions after total hip arthroplasty with posterior approach: A systematic review and meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2024 Dec 13;103(50):e40348. doi: 10.1097/MD.0000000000040348. PMID: 39686472; PMCID: PMC11651519.
- Tsukada S, Wakui M. Lower Dislocation Rate Following Total Hip Arthroplasty via Direct Anterior Approach than via Posterior Approach: Five-Year-Average Follow-Up Results. Open Orthop J. 2015 May 15;9:157-62. doi: 10.2174/1874325001509010157. PMID: 26157532; PMCID: PMC4483535.

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