【この記事でわかること】
- 人工関節置換術後の感染(人工関節周囲感染:PJI)とは?
- 感染の発生頻度(感染率)と原因
- 治療法の進歩と現在の成績
- ISAP(Individualized, Stage-Adapted Protocol)という新たな概念
- 感染を防ぐために患者さんにできること
人工関節置換術後に「感染」は起こるのか?
人工関節周囲感染(PJI)とは?
人工関節置換術後、まれに人工関節の周囲に細菌が侵入し、感染を引き起こすことがあります。これを**人工関節周囲感染(Periprosthetic Joint Infection:PJI)**といいます。
感染率はどれくらい?
多くの大規模研究やレジストリ報告では、感染率は概ね全体の約1%程度とされています。喫煙の習慣や糖尿病など合併症がある方は感染率が高いとされています。
感染が起きたらどうなる?
基本的には手術が必要となります。近年では可能性は低いですが、場合によってはインプラント抜去が必要となります。
抗菌薬の使い方も進化しています
現在では抗菌薬の使い方や手術戦略の進歩により、インプラント温存治療の成功率が向上しています。
- DAIR(Debridement, Antibiotics, and Implant Retention)法では、条件を満たせばインプラントを温存したまま治療できることが多くなってきました。
- 抗菌薬は長期投与(6週以上)が行われるのが一般的です。
新たな個別化治療戦略:ISAPとは?
近年注目されているのが、iSAP(intra-Soft tissue Antibiotics Perfusion)という治療法です。
iSAPとは、「感染を起こした人工関節や周囲の軟部組織(筋肉や皮膚)に、抗菌薬を局所的に送り続ける治療法」です。
従来の点滴や内服とは異なり、感染部位に高濃度の抗菌薬を持続的に投与できるのが特徴です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 手術後に発熱が出たら感染ですか?
A1. 術後2〜3日は炎症反応で一時的に発熱することもあります。ただし、38度以上の発熱が数日続く場合は必ず受診してください。
Q2. 感染したら必ず再手術になりますか?
A2. いいえ、早期であれば抗菌薬+洗浄手術でインプラントを残せる可能性もあります。早期発見・早期治療がカギです。
Q3. 糖尿病でも手術は可能ですか?
A3. 可能です。ただし、感染リスクが高いため、術前の血糖コントロールや免疫調整が非常に重要になります。当院では内科との連携で全身管理を行います。
まとめ
- 人工関節手術後の感染(PJI)はまれですが、発生すると重篤になる可能性がある合併症です。
- 感染率は概ね1%程度とされています。(当センターでは2025年9月時点で発生なし)
- 治療法の進歩により、成績は大きく向上しています。
- 早期発見と、専門的な個別対応が最も大切です。
ご相談・診療について
感染への不安がある方、過去に感染歴がある方も、
「人工関節の専門医による診察と治療方針の説明」をお受けいただけます。
当センターには福知山市を拠点に、北近畿エリア(綾部市・京丹後市・宮津市・与謝野町・舞鶴市・豊岡市・養父市・朝来市・丹波市)からも多数ご来院いただいています。
この記事は京都ルネス病院人工関節センター センター長、整形外科専門医・人工関節認定医 藤井嵩が執筆しています。
出典・参考文献
- Tande AJ, Patel R. Periprosthetic joint infection. Clin Microbiol Rev. 2014 Apr;27(2):302-45. https://doi.org/10.1128/CMR.00111-13
- Kunutsor SK, Whitehouse MR, Blom AW, Beswick AD. Re-Infection Outcomes Following One- and Two-Stage Surgical Revision of Infected Hip Prosthesis: A Systematic Review and Meta-Analysis. PLoS One. 2015 Sep 22;10(9):e0139166. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0139166
- Shohat N, Bauer TW, Buttaro M, et al. Hip and knee section, treatment, debridement and retention of implant: Proceedings of International Consensus on Orthopedic Infections. J Arthroplasty. 2019 Feb;34(2S):S399-S419.e1. https://doi.org/10.1016/j.arth.2018.09.025

 
			
コメント